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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)2076号 判決

原告 株式会社トンボ鉛筆製作所

被告 菊地良士

一、主  文

被告は別紙第二目録中(1) (2) (3) (4) と同一又は類似の構成を有する商標を附した鉛筆並びに同(5) (6) (7) (8) (9) と同一又は類似の構成を有する商標を附した鉛筆用紙牌の製造販売をしてはならない。

被告はその保管にかかる鉛筆及び鉛筆用紙牌のうち前項に記載する各商標部分を抹消せよ。

被告は原告に対し別紙第四目録記載の新聞に同目録記載の要件の謝罪公告を掲げよ。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二、五項同旨及び「拙者は貴社の登録商標「トンボ」「TOMBOW」印が鉛筆界に著名優秀品にして売行き盛なるに著眼し、拙者の粗悪品に対し、その模造商標を附し発売し以て貴社製造の鉛筆と混同誤認を生ぜしめ、営業上の信用を害し多大の迷惑を相掛けましたことは誠に申訳無之今後は絶対にかかる模造商標は使用しないことを誓約いたし茲に謝罪いたします。昭和 年 月 日東京都荒川区尾久町二丁目四百番地菊地良士東京都台東区浅草柳橋二丁目四番地株式会社トンボ鉛筆製作所社長小川春之助殿」との謝罪公告を表題及び氏名法人名は四号、その他は五号活字をもつて日本文具新聞、全国文具新聞、文具界、日本経済新聞に各二回宛掲載せよとの判決を求め、その請求原因として原告は登録番号第一九九八七四号(昭和二年十二月二十二日出願、同三年二月二十一日公告、同年六月二十日登録同二十三年十一月十日更新登録、指定商品第五十一類鉛筆)及び登録番号第三〇〇一六七号(昭和十一年十一月五日出願、同十二年十月十四日公告、同十三年三月二十五日登録指定商品第五十一類鉛筆等)により別紙第一目録記載の商標権を有し該商標を附した鉛筆を製造販売し居るものであるが、被告は別紙第二目録中(1) (2) (3) (4) の各商標を鉛筆に附し、又同目録中(5) (6) (7) (8) (9) の各商標を鉛筆用紙牌に附して鉛筆を製造販売し、なお、右商標を附した完成品及び製造過程にあるもの鉛筆六百三十九グロス同紙牌四百枚を現に所有している。然しながら被告の製造販売する右鉛筆の商標は昆虫の「トンボ」であり、その外観、称呼観念の点からみて原告の商標と同一又は類似に帰着し、(なお、被告の抗弁に対し、被告の製造販売している鉛筆の商標は被告が、登録していると主張する商標(別紙第三目録)と同一又は類似の範囲を逸脱したものである)、被告が右商標を使用して鉛筆を製造販売することは原告の有する前記商標権を侵害するものであるから原告は被告に対してその製造販売の禁止及び尚現に該商標を附して被告の所有している鉛筆並びに鉛筆用紙牌につきその抹消を求め、なお被告は原告が右登録商標を有することを知つて故意に自己の品質粗悪な鉛筆及び鉛筆用紙牌に前記商標を附して原告の商標権を侵害しこれにより原告は営業上の信用を害せられ多大の損害を蒙つたものであるから被告は原告に対して請求趣旨記載の如く謝罪広告をなすことを求めるなお被告主張の抗弁事実は否認すると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告がその主張のような商標を附して鉛筆の製造販売を業としていること及び被告がその製造販売する鉛筆に原告主張の(3) 、鉛筆用紙牌に(9) と略々同様の商標を TOMBO-HAMONIKA 又は TONBO-HAMONIKA なる文字商標と合わせて表現していることは認めるが、原告の右商標が登録商標であることは不知その他の原告主張事実はすべて否認する。被告も亦鉛筆の製造販売業者であり、且、その製品に対する登録商標を有して居り、その商標を使用して居るものでありその登録商標(登録番号、第三五六〇四一号及び第二八二四九二号)は別紙第三目録記載のとおりである。なお甲第五号証の鉛筆は今次の大戦終了直後未だ秩序回復せず彫金業者も見当らず商標の原型を新たに製作すること困難なりし時やむを得ず、取り敢えず戦災に罹つた焼印によつて印刻製造したもので、しかも僅かに三百グロス製造したに過ぎず、その量は原告の年産十数万グロスの製造量に照らし問題視するに足らない。ましてこの点に関しては昭和二十三年原告代理人である弁理士加藤格が被告方来訪の際諒承したものであるから、右甲第五号証の鉛筆に表示した商標の使用が傍らにTONBO-HARMONIKAなる文字をも併せ表示したにも拘らず、なお不当なりしとするも既に円満解決済のことである。仮りに然らずとするも、前古未曾有の混乱時中真にやむなく一時凌ぎに極く僅かの数量に使用したに過ぎない些事を捉えて本訴請求のような過重な謝罪広告をさせようとするのは、徒らに被告の人格を傷つけることを目的とするものにほかならない。況んや原告自らも認める如く巷間無登録者にして類似商標を使用する者簇出したるに鑑み、それらの者に対する一種の他戒的効果を専らねらつて、右の如き過当な請求を被告に対して為すものであれば、これ正に権利の濫用であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告がその主張のような商標を附して鉛筆の製造販売をしていること及び被告がその製造販売にかかる鉛筆に原告主張の(3) 、鉛筆用紙牌に(9) と略々同様の商標をTOMBO-HAMONIKA又はTONBO-HAMONIKAなる文字商標と合わせて表現していることは当事者間に争がなく、更に被告がその製造販売する鉛筆に原告主張の(1) (2) (4) 、同用紙牌に(5) (6) (7) (8) と同様の商標を表現していることは、(1) (2) (5) (6) (7) (8) については成立に争ない甲第三号証により、(4) については同じく成立に争ない甲第五号証の一及び証人加藤格の証言により認めることができる。然して成立に争ない甲第一、二号証及び同第四十七号証によれば原告は登録番号第一九九八七四号(昭和二年十二月二十二日出願、同三年二月二十一日公告、同年六月二十日登録同二十三年十一月十日更新登録)及び登録番号第三〇〇一六七号(昭和十一年十一月五日出願、同十二年十月十四日公告、同十三年三月二十五日登録)により鉛筆等(指定商品第五十一類)につき商標権(その商標は別紙第一目録記載のとおり)を有する事実を認めることができ、証人加藤格の証言、鑑定人村田重吉、同熊谷福一の鑑定の各結果によれば原告が商標権を有する鉛筆及び同用紙牌の右商標と被告の製造販売する鉛筆及び同用紙牌の商標(前記(1) 乃至(9) )とは全然同一とは云い得ないけれどもその主体は何れも昆虫の「トンボ」であり、その外観称呼、観念の点からみて何れも紛らわしく類似しおる事実を認めるに十分である。然らば原告の有する本件商標の登録範囲は被告の右製造販売にかかる鉛筆及び同用紙牌の商標に及び、被告が右商標を附した鉛筆を製造販売する行為は原告の商標権を侵害すること明であるから原告は右行為の禁止を請求しうるものと謂わなければならない。之に対し被告は被告も亦鉛筆の製造販売業者であり、その製品に対する商標権を有して居り、その登録商標(別紙第三目録記載)を使用して居るものである旨主張し、而して被告の登録商標が被告主張の通りであることは成立に争ない乙第一号証第二号証により認めることができるけれども鑑定人村田重吉同熊谷福一の鑑定の各結果によれば被告が現に使用している前記商標は被告の登録商標の範囲を逸脱し、適法な商標権の行使とは認められず、且つ原告が本件商標の登録出願の際にはかかる商標を被告が使用して居らなかつたことは被告本人尋問の結果により認めることができる。また TONBO-HAMONIKA 及び Tombo-Hamonika の商標は成立に争ない甲第三号証及び甲第五号証の一により被告がその製造販売する鉛筆に使用していたことが認められ、又鑑定人熊谷福一の鑑定の結果及び成立に争のない甲第四十七号証によれば結局これらはいずれも被告の登録商標権であるTONBOHAMONIKAの文字を連字符を以て分離変更した態様において表現したものであつて被告の右登録商標の正当の行使の範囲を逸脱したものと認められる鑑定人村田重吉の鑑定中右認定事実に矛盾する部分は採用しない。のみならず成立に争ない甲第四十七号証第四十八号証によれば被告主張の登録商標は権利の抛棄及び取消審判により一応その登録が取消されたのである。

更に被告は甲第五号証の鉛筆の製造販売に関する点は昭和二十三年中原告の諒承によつて円満解決済なる旨主張するけれども、かかる事実を認むべき証拠なく却つて証人加藤格の証言及び鑑定人川熊三郎の鑑定の結果に徴しむしろかかる事実の無かつたことを窺うに足る。又被告は原告の本訴請求は結局権利の濫用である旨主張するけれどもその主張事実を認むるに足る何等の証拠がない。従つて、右の如き被告の主張を以ては原告の本訴請求に対する抗弁とはなし得ない。次に被告が原告主張のような商標を附した鉛筆六百三十九グロス、同用紙牌四百枚を所持していることは成立に争ない甲第三号証により認めうるところであり、証人小川浩平の証言、原告会社代表者本人尋問の結果によれば被告が前記商標を使用して鉛筆を製造販売したことによつて原告がその営業上の信用を害せられて損害を蒙つたことは明らかであり、更に証人加藤格の証言、原告会社代表者本人尋問の結果によれば原告会社では被告に対して再三類似品の製造をやめるように申入れたことが認められ、この事実と前記認定事実とを綜合すれば被告は故意に原告の商標権を侵害したものというべきである。従つて被告は原告に対し主文掲記のとおりの広告を掲載することを適当と認めるが原告主張の如き謝罪広告を掲載する理由はないものと認める。そこで裁判所は主文記載の範囲において原告の請求を正当として認容しその余の部分を棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 石橋三二 鈴木重信)

第一目録、第二目録、第三目録 <省略>

第四目録

一、掲載すべき新聞 日本文具新聞 文具界

二、掲載回数 各一回

三、活字の大きさ 表題及び原被告氏名四号その他五号

四、広告文面

私儀自己の製造にかかる鉛筆に貴社の登録商標「トンボ」「TOMBOW」印と類似せる商標を附して発売し、以つて貴社製造の鉛筆と混同誤認を生ぜしめ営業上の信用を害し、多大の御迷惑をおかけいたしましたことは、誠に申訳なくここにお詫びいたします。

昭和 年 月 日

東京都荒川区尾久町二丁目四百番地

菊池良士

東京都台東区浅草柳橋二丁目四番地

株式会社トンボ鉛筆製作所

右代表者社長 小川春之助殿

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